新カテゴリは加速度的におもしろくなる――フォーミュラEの試行錯誤

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フォーミュラEのファン歴10年,それはFEの試行錯誤を見つめ続ける期間でもありました。
10年前に発足した新カテゴリは,言うまでもなく発展途上です。シーズン1時点で未完成であるのは当たり前,このカテゴリが成長していくのを見届けられる! という期待と高揚感を,私はずっと持ち続けています。

どんどん変えよう,失敗したらすぐに見直そう。これは歴史の長いカテゴリではなかなかできないことです。伝統にとらわれない挑戦ができることが,まさにフォーミュラEの強みだと思っています。

この記事では,FEにおけるいくつかの試行錯誤について取り上げます。
(※私のあやまり,理解不足などがありましたら,ご指摘いただけると幸いです)

ファステストラップーーシーズン2のドラマ,しかし。

シーズン1・2では2ポイント,シーズン3以降は1ポイントがFL獲得者に与えられます。

フォーミュラE初のファステストラップは,シーズン1開幕戦における佐藤琢磨です。この2ポイントは,これまで日本人ドライバーが獲得した唯一のポイントでもあります。
ただ,このレースで佐藤琢磨はリタイアしているので,現行のルール(10位以内の完走者のうち最速のドライバーにFLが与えられる)ではポイントになりません。シーズン3において,入賞できないと確信したドライバーがタイムアタック→リタイアというパターンが頻出した(全レースで入賞者のFLがなかった)ため,シーズン4にてルールが改正されました。

このルール改正はもっともなことでしたが,シーズン2ではルール改正前のファステストラップによって,最終戦にドラマが起こりました。

シーズン2の最終戦,セバスチャン・ブエミがPPを獲得し,本戦開始前についにルーカス・ディ・グラッシと153ポイントで並びます。

しかし,本戦へのファンの期待が高まる中,開始のほぼ直後にディ・グラッシがブエミにミサイルするという信じられない事態が起こります。両車ともかろうじて稼働する状態だったため,ヨロヨロしながら二人はピットへ。
Gen1の特色である「二台目」に乗り換え,あとは電力の続くかぎりタイムアタックをすることになりました。最終的にFL合戦を制したのはブエミ。2ポイントを獲得し,シーズン2の王者となりました。

乗り換えなし,入賞圏外のFLポイントなしという現行ルールでは,ディ・グラッシがブエミに激突した時点で事実上の両者リタイア・ノーポイントとなっていたわけで,その場合153ポイントで同点ながら,ディ・グラッシが王者だったはずです(ブエミ,ディ・グラッシともに1位3回,2位2回だが,3位はディ・グラッシが2回,ブエミが1回)。

これ,ブエミがピットまで戻れてよかったですね……ディ・グラッシミサイルで王者が決まっていたら,相当荒れていたと思います。

image 東京E-Prix・スタート前のサム・バード(最下位グリッド)。ファステストラップではあったものの,19位だったためポイントは獲得できず(FL1ポイントは優勝したギュンター)。

シーズン7の「失敗」?――予選方式と本戦の電力減算

フォーミュラEの試行錯誤で,私が唯一「失敗」と考えているのが,世界選手権となったシーズン7です。

まず予選においては,前戦の上位者がグループステージの前半におかれるようになったためにタイムが出なくなり,ほぼ下位グリッドからスタートすることが決まってしまい,二戦続けて上位に入ることが至難の業となりました。上位と下位の差を少なくするための方策であったと思われ,その狙い通りにはなりました。最終戦において,15人に王者の可能性があるというとんでもない状況だったので……。

最終的に,王者のニック・デ・フリースから15位のニック・キャシディまでわずか23ポイント差という大混戦となりました。ただ,この混戦はチームやドライバーの技量というよりも,明らかに作られたものという感じがしてしまい……。 これを失敗とみなしてかどうかはわかりませんが,シーズン8からは現行の「グループ予選+デュエル」という新方式の予選となりました。

本戦に関しては,セーフティーカーやフルコースイエロー中に,一定の電力が消費されるというシステムが導入されました。このシステムについては,実は私も,シーズン6まで導入してはどうかと思っていたので,個人的には満を持して! という感じでした。SCやFCYが入るほどに,レース後半に全開走行ができるようになるというのもどうかと思っていたので。

ところが,第5戦のバレンシアでこのシステムの問題が顕在化します。複数のコーションが入った結果,ファイナルラップでほぼ全車が電欠。かろうじて1周する電力を残していた,主に後半順位のドライバーだけがゴールする(10台完走できなかった)という事態に。24番・最下位グリッドだったバンドーンが3位入賞するなど,大荒れ……というより死屍累々のレースとなりました。

このレースの勝者はニック・デ・フリース。この勝利が最終的な王者につながると考えると,なんとも複雑です。(ただしデ・フリースはこのレースで2番グリッドだったので(修正:5グリッドペナルティで7番グリッドでした),単純に大荒れの恩恵を受けた勝利というわけでもありません)

結局,このシーズンかぎりでシステムは廃止。翌年からはアディショナルタイム/ラップとなりました。

シーズン7は,予選・本戦ともに,「失敗」であったと私は考えています。
しかし,そのシーズンに導入したシステムをすぐに切り替えられるのが,新カテゴリの強み。翌シーズンには,すぐに改善されています。歴史のあるカテゴリでは,ルールを改正することは軽々にはできないでしょう。

進化のために失敗を恐れない,また,恐れる必要もない。これがフォーミュラEの魅力だと思っています。

ファンブースト――他カテゴリにも進出した目玉,廃止へ。

「フォーミュラE」というレースの発足にあたってのいちばんの目玉が,ファンブーストであったと思います。
ファンによる人気投票で,上位3~5人にレース中短時間のエクストラ・パワーが与えられるというもの。「ファンがレースに参加できる」という触れ込みは魅力的でした。

このシステムは,のちにストックカー・ブラジルに「ファン・プッシュ」として導入されるなど,他カテゴリにも進出しました。決して「失敗」ではなかったと思います。

しかし,シーズン8をもってファンブーストは廃止されました。
使いどころが難しく,オーバーテイクにそこまで寄与しないといった理由もあるかもしれませんが,いちばんの理由は,バンドーンがシーズン5~8まで,すべてのレースでファンブーストを獲得するなど,投票先が偏ってしまうということでしょう。
まあ人気投票なわけですから,偏って上等という気もしますが,毎回ファンブースト獲得者が同じではマンネリ化もするというもので。

現在,ファンブーストのホームページは「PREDICTOR」として,レース予想のファン投票として活用されており,公式アプリを入れると楽しめます。おもしろいですよ。

アタックチャージ――導入が見送られ続ける給電,シーズン11は?

これは「未来」の話です。
Gen3となったシーズン9から,ピットストップにおける給電(「アタックチャージ」)が検討され続けています。

今年のシーズン10は実践的なテストも行われ(参考),複数のレースで導入される予定でしたが,プレシーズンテストで火災が発生してしまい,直前で導入が見送られてしまいました。

もちろん安全の確保が最重要。満を持しての給電を,楽しみにしています。そのとき,フォーミュラEはまた一歩進化します。

給電時間・給電量を各チーム・ドライバーで可変式になるとおもしろいと思いますが,どうでしょう?

とりあえずの結び。

アタックモード(シーズン5・Safety car in this lapの途端にぞろぞろアクティベーションゾーンに突っ込んでいく各車,シーズン10のアタックモードは「失敗」か? など)についても書こうと思ったのですが,力尽きました。

ともかく,試行錯誤を続けるフォーミュラEは,こんなにも魅力的だということです。

失敗していい。何度でもやり直していい。
どこまでも成長してくれ。

みんな聞いてくれ。
いいぞ,フォーミュラE。

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フォーミュラE をはじめとするあらゆる四輪モータースポーツの浅いファン。FEではシーズン1からサム・バード推し。ヘッダーは妻が2020年の息子の誕生日に描いてあげた,エンヴィジョンのGen2に乗る息子。
近鉄バファローズ→オリックス・バファローズのファン。

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