初めに
はじめまして、yuhuaと申します。
興味を持てば古今東西、大抵のものは読みます。その中でも特に好きなのはファンタジーです。
幼少期の『冒険活劇が好き』という単純な理由から始まりましたが、最近では他のジャンルと比べて何かを仮託しやすい形式ではないかと考えています。
喜びも悲しみも、より純粋な形で表現しやすいのではないか、と。
この企画を目にして即座に思い浮かべた数冊もやっぱりファンタジーでした。
多崎礼 『煌夜祭』
最近では『レーエンデ国物語』シリーズが有名な作者のデビュー作です。
構図としては至ってシンプル。語り手が焚き火を囲んで、順番に自分が知っている物語を語っていきます。
物語のための物語
物語。同氏の作品を語る上で外せないのはこの言葉でしょう。
作中で今ここにいるのが確定している主要人物はたった2人。でもその2人が語る事実に基づいた物語をつなぎ合わせていくことで、過去から現在に至るまでの歴史という長大な織物、その一部に触れることができる。
これが吟遊詩人なら話を盛り上げるために虚実織り交ぜて語るでしょうが、この2人は作法としてそれをしません。なので語られる情景がより真に迫ります。
ある意味、語り手の回想録とも言えるでしょうか。どこか戯曲のような幻想的な雰囲気や、童話めいた素朴ささえ漂う不思議なひと時です。
なんのための物語?
作中ではある目的のために物語が語られるようになったといい、同時にその目的の背景についても1つの推測がなされます。
それはそれとして、物語とはなんなのか? ということを真面目に考えたくなる作品です。
物語。
何かについて語ろうとすれば、大体のことが物語になる気がします。
実際の定義にしても下記のとおりです。
1 さまざまの事柄について話すこと。語り合うこと。また、その内容。
「世にも恐ろしい—」
2 特定の事柄の一部始終や古くから語り伝えられた話をすること。また、その話。
「湖にまつわる—」
3 文学形態の一。作者の見聞や想像をもとに、人物・事件について語る形式で叙述した散文の文学作品。狭義には、平安時代の「竹取物語」「宇津保物語」などの作り物語、「伊勢物語」「大和物語」などの歌物語を経て、「源氏物語」へと展開し、鎌倉時代における擬古物語に至るまでのものをいう。広義には歴史物語・説話物語・軍記物語を含む。ものがたりぶみ。
4 歌舞伎・人形浄瑠璃の演出の一。また、その局面。時代物で、立ち役が過去の思い出や述懐を身振りを交えて語るもの。
出典 goo辞書 物語 https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E7%89%A9%E8%AA%9E/
何のために物語があるのか。意図があるとすれば何を伝えたいのか。それらを基にして今何ができるか。何をすべきか。
古くは神話や民話から始まり、歴史、個々人の記録まで。全てが物語であり教材であって、そこから何を読み取るか、どう活かすかはそれぞれの解釈に委ねられる。
例え今すぐには役に立たないとしても、後世にはどうなるかわからない。故に物語というものは伝えられることに意味があり、語り手である意義もある。
人に歴史ありという言葉を再認識させられると同時に、少し話を広げて個々の存在意義、尊厳というもの、人の願望や夢、希望といった事柄まで思いをはせたくなる。
初めて読み終えた時の、これこそ小説、これこそ物語だという静かな感動。
私にとっては珠玉の一冊です。
初版と電子書籍版の差異
初版を読み進めていた時、作中のエピソードで「その後はどうなったんだろう?」と気になるところが幾つかありました。
それが近年新装版が発売されまして、気になっていたあたりを補完してくれる小話が追加されています。
その分空想の余地が減るので初版と比較すると読後感が微妙に違いますが、個人的には満足度が上がりました。その後については賛否両論ありそうですが、こういう終わり方があってもいいよねと。
終わりに
書きあげてみれば下手なレビューになりましたが、初見の方には極力ネタバレなしで楽しんで頂きたいのでこのままいきます。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
どうか皆様、よい年末年始をお過ごしください。
yuhua